続報『童貞。をプロデュース』問題 当事者同士の対談ーそこから見えてきたもの(3)

直井卓俊氏との対談

—今回対談に来たスタンスは?

・加賀くんの話を聞きたい。これから出来ることは何かということ。インタビューが出る前には分からないことがあり、話をしてみたいと思った。この映画に対してどうすべきかを聞きたい。上映を続けていたことには責任があるのでお詫びしたい。

—『童貞。をプロデュース』に関わった経緯や、松江氏との関係は?

・ピンク映画の上映に関わっていた中で、上映会の司会として松江さんが出ていたのを知ていた程度。しまだゆきやすさん(ガンダーラ映画祭主催)を通じて上映会に行ったのが作品に関わる最初のきっかけ。作品を見て加賀くんをヒーロー的に見て、青春映画としていいなと思った。当時はアップリンクでDVD化の仕事をしており、後にソフト化があるなら手を挙げたいと話していた。

 『童貞。をプロデュース2』が作られる段階で、劇場で上映したいという松江さんの意向を受け、企画書を持って池袋シネマ・ロサに行った。『〜1』の時は観客だったが『〜2』から劇場との繋がりなどをセッティングした。当時DVDの仕事しかしたことがなかったが、配給などにも興味があって手伝った。勝村俊之さん(池袋シネマ・ロサ)が『〜2』も一緒にやったら面白いのではと言ってくれた。

(※加賀氏がメインで出演しているのが『〜1』、梅澤嘉朗氏が出演しているのが『〜2』である。劇場公開時には二つを合わせて『童貞。をプロデュース』として上映された。)

—その頃、撮影内容については?

・全く知らない状態だった。

—当時は「出演者」として加賀氏を認識していた?

・出演者として認識していたのは間違いない。

—共同制作者として、撮影した側にも著作権があるという話について。

 劇場公開時に松江さん、直井さん、梅ちゃんと、劇場前で話した際にも、中野のタコス屋で直井さんと話した際にも、「著作権」のことは話していたが?(加賀氏)

・そこが(著作権について当時から加賀氏が話していたことについて)認識から欠落していた。当時は出演者との認識で、著作権者だと思っていなかった。

—どの段階で、深刻性や加害性を認識していたのかが重要。上映中にも被害の話を受けていた認識は?

・シネマ・ロサ上映の三週目で、「上映したくない」という意見は聞いていたが、具体的に聞いた認識がない。「みんなが僕を見てバカにしている。笑っている」という言葉は覚えている。当時は加賀くんのことをかっこいいと思っていた。

 松江さんが監督として上がっていくことへの嫉妬があるのかな、と思っていた。

—シネマ・ロサの裏で路上で四人で話し、そこでDVDの話が持ち上がり、口論になった。そこで松江さんが「直井さん。こいつ殴っていいですか」と言ったことは覚えているか? (加賀氏)

・覚えている。そこで明け方までいた。撮影時のディティールについては…

—二年前にやったこと(舞台挨拶時)は、当時からしなきゃいけないと思っていた。当時、言葉は尽くした。あまりに分かってもらえないので、自分が間違っているのかとも疑った。この問題については、死んでもおかしくないくらい悩んだ。(加賀氏)

—問題のシーンの撮影内容に同意があったと認識していたなら問題はクリアだが、そうではない。「ドキュメンタリー」として公開したことへの認識は?(加賀氏)

・松江さんの作り方や批評を聞いていて、仕掛ける、演出があるという認識。当時はこれもドキュメンタリーなのかなと認識していた。森達也さんの『ドキュメンタリーは嘘をつく』などもあり。当時は疑問に思ってなかった。演出に関して加賀くんもOK出してると荒っぽくは思っていた。

—実際には台本がない。編集の構成でも嘘をついている。コイントスのシーンの嘘、「AV女優は汚い」と言えと、言いたくないセリフを妥協策として言わされたこと。そのあとも強要は終わらず、最初は(口淫の)フリだったのが、次第に強要され、最終的に笑いながら「勃起してんじゃねーか」と言われた。そこで観客が笑う。この主張についての認識は?(加賀氏)

・結構びっくりした。

—その話も当時していたはずだが?(加賀氏)

・してる?そっか…

(※直井氏は、当時その話を聞いていたとの認識がないリアクション)

—当時、直井さんは後から入ってきて何も知らないでやってるんだと認識していて、言いづらいなと思っていた。最初は嫌なので上映して欲しくないと言っていたが、だんだん、空気読めない人だとなってきて(加賀氏がそういう立ち位置に追い込まれて来て)、順々に詳細を話していた。その認識は?(加賀氏)

・それは申し訳ない。「嫌だ」という言葉は覚えているが、現場のディティールについて聞いた記憶はなかった。

—そこは聞いているはず。大したことないだろうというフィルターがかかっていたのでは。今は深刻な自体だと認識していると思うが。自分自身も、大したことないと認識することが逃げ道になっていた(被害の深刻性を認識することに対し、自身も防衛的に反応していた)。

 これが『処女。をプロデュース』だったら、もっと深刻性に気づく人が多かったはず。男性だとその認識が変わる。(加賀氏)

・当時の「業界」、音楽も銀杏BOYZとか、伊集院(光)さんとかみうらじゅんさんとか、コメディに捉える磁場はあった。童貞かっこいい、「DT」みたいな空気が…

—連絡を取らなくなったあとも上映を続けていたが、その時の認識は?

・数年目以降は、ロサからこの時期にやりたいと言われ、松江さんに確認する。それしかやっていなかった。DVD化がなくなる段階で加賀くんが強く反対したのは覚えている。他の問題もあり、出せないと思っていたし、DVD化まではしなくていいと思っていた。松江さんはDVD化したがっていたが、自分はDVDが出ないことになり、ホッとしたのを覚えている。初めての配給作品が大きくなっていて、二次利用も怖かった。

—その後はだましだまし、上映を続ける魂胆だった?

・上映は松江さんがやりたかったらやる、という認識。ロードショーはないにしろ、年に一回ならいいか、という認識がなかったとは言えない。

—加賀氏の訴えをそれほど重くは受け止めていなかった?DVD化しなかったのなら、今の認識まで(現状理解している被害の深刻さまで)想像できなかったのはなぜか?

・認識の甘さというか、ソフト化は絶対ダメだが上映はいいということは他の作品でもあって…

—上映自体にもNGを出していた。そもそもガンダーラ映画祭での上映にしか同意していなかった。その話は中野のタコス屋で話をしていたはず。その約束については松江さんのブログにも書かれていた。その相談をした時に、直井さんが机を叩いて「そんなの知らねえよ」と怒鳴ったのを覚えている。松江さんにその話をしたら、もう話したくない、直井さんに言えと言われ、直井さんに行くと松江さんとの間の話だろと言われた。(加賀氏)

・怒った理由は、言葉尻で怒ったのを覚えているが…あの時お金を渡しに行って…

—お金は別の時。(加賀氏)

・松江さんから「お礼」がしたいと言われて、単純な想いだと思うが。最終的に怒ったのは…「そんな汚い金は受け取れない」と加賀くんに言われた記憶がある。

—お金の話はメールだった。出演料十万円払いますと連絡が来た。まだお金の話にすら自分の中ではなってなかったので、「出演料」の意味が分からないから、お金の内訳を出してくれとメールした。それ以降、直井さんから返信はなくなり、2008年の夕張映画祭で会って、東京に戻ったら連絡すると言われたが、その後返信はなかった。その後、松江さんに連絡した。それ以降、両氏とは連絡が途絶えた。(加賀氏)

(※当時、加賀氏が松江氏に改めて上映中止を電話で求めた際の様子は、加賀氏が記録した動画がyoutubeに公開されている https://youtu.be/yrh-E6KQbPM

・内訳は配給としてはあるが、製作者の許可なしでは出せない。今回、当時の数字、売り上げや分配は記録を掘り起こした。松江さんがOKだったら開示する。

 当時はバイオタイドの木下さん(現:合同会社「東風」代表 木下繁貴氏)にサポートしてもらっていた(興行収入と内訳の詳細を加賀氏に説明する)。

ー単純に、取り決め(ガンダーラ映画祭以降の上映については都度確認をとると松江氏は加賀氏に約束していた)していたのに、上映されたことに対しての認識は?

・十年前の自分の裁量の中で、当時の頭だとプロデューサー兼監督がいて。掘り下げて行くと複雑な作られ方だが…もっとやり方があったんだろうと言うか。認識の甘さ。

—事件後に、直井氏と加賀氏が会うのは初めて?「和解のための協議」はあったのか?

・直接は会っていない。寺内さん(寺内康太郎監督)を介して話し合いのオファーはしたが、公開前提を求める(「ロフトプラスワンでやりましょう」)加賀くんと、非公開を望む松江さんの間で了解が得られず、配給として動けなくなった。

—なぜ公開だとダメだったのか?客前に出なくても、公開前提で今回のように会うことは出来たのでは?(加賀氏)

・それは松江さんに聞いてほしい。松江さんがいなかったらこの仕事をしてないというのもあり…もっと早くに自分の言葉を出してもらう方が良いのでは?と話してはいたが、加賀くん本人と話がしたいという、松江さんの意向が強くあった。

—松江氏とは関係なく配給として加賀氏と会おうとは?強要への理解がなかったから?

・舞台挨拶時には、なぜそこまで怒っているかは理解していなかった。

—二年前の舞台挨拶後のブログで、すでに加賀氏は被害のディティールを書いていたと思うが?読んでも認識は変わらなかった?

・ピンときていなかった。「そういうことだっけ?」という。事を大きく捉えてなかった。

—配給としても、監督にお任せではなくアクションを取るべきだったのでは?

・自分も躊躇してたのが悪い。松江監督が直接やりとりするものと。

—ここまでの経緯を知っていれば、松江氏に任せていても解決しそうにないとイメージ出来たと思うが?

・最近だが、配給側からどうすべきかということを考えた。最終的には上映をしていたことに対して謝罪したいと思ってはいたが、強要問題が絡んでくるので、そこに関しては配給なんで、ということは(語らないという訳には)…松江さんを孤立させるというか。責任があると思って連名にしたが。思い切って自分がやってしまえば良かったのかもしれないが…松江さんに気を遣っているところがあって。

—二年前に声明を出した時に、加賀氏の気持ちは認識ができたのでは?

・そうだが、混乱はした。「強要問題」というものに。単純な気持ちで言えば、「言われてみれば、今、そうだよね」という。「そっか」と思うところはあって。自分にショック。当時の捉え方が。当時「強要問題」という認識は、全くできてない。

—2019年12月に出された声明文(謝罪文)について。

・インタビュー(藤本氏の記事と思われる)が出て、twitter上でも色々あり。松江さんから『音楽』(2020年1月公開、岩井澤健治監督のアニメーション映画。松江氏はプロデューサーとして参加している)の公開も控えているので、プロデューサーとしてコメントをという話があったらしく、謝罪を出すと急に言われた。

 松江さんから、twitter上で『音楽』について絡めて書く人もいるが、SNSもやめて発表する場がないので、SPOTTEDから出して欲しいと言われ、SPOTTEDのWeb上に、送られて来た記名入りの画像をそのまま上げた。

 謝罪がシンプルすぎるし、声明文(2017年の)とも違う認識の謝罪になるので、端的にそれを(自身の文章で)加えなければと思った。

—今回の文章については弁護士などは?

・入っていない。2017年の連名の声明は弁護士が入って作成した。弁護士はシネマ・ロサの紹介。当時は強要問題はない前提で作っていた。その文章(「観客の安全…」の部分)に関して、劇場側もナーバスになっている部分があった。

 当時混乱してたのが壇上のこと。客席で撮影して声を出す人がいた。彼のことも含めての文章。ロサにも確認をとった。本来は三者(松江氏、直井氏、シネマ・ロサ)で分けて書くべきだったかもしれないが…

—「公式声明において、事実と異なる内容を発信してしまっていたことを厳粛に受け止め、心よりお詫び申し上げます。」の「事実と異なる内容」とはどの部分か?

・「よって、性的なシーンの強要やパワーハラスメント等の違法または不当な行為は、『童貞。をプロデュース』においては存在しません。」という部分。松江さんには確認をとっている。

—2017年の共同声明について。

 「観客の安全を担保できないおそれ」というのは本気で?

・劇場側がナーバスになっていた。オーバーに言うとセキュリティというか。それはおかしいという意見もあると思うが。

—加賀氏が観客の安全を侵すと直井氏自身は認識していたか?

・加賀くんがという認識ではない。

—文章的には、加賀氏が観客に対し暴行に及ぶかもしれないと読める。傷害罪、公然わいせつ罪、威力業務妨害罪など書くなら、警察に言えば良かったのでは?

・松江さんは当時、警察には言わないと言っていた。

—全治一週間というのは?

・一応診断書はある。あざが出来ていた。日常生活に支障をきたすほどではないと思う。

—「加賀氏が強要を受けたと主張するシーンについても、加賀氏は一貫して撮影に協力的でした。松江監督は何ら強要行為などしていません。このことについては、撮影現場にいた複数の人物の証言もあります。」の部分について、複数の人物とは?

・松尾さん以外は分からない。

—松尾さんは証言していないと言っている。

 現場には他にAV女優の方と、ヘアメイクの方、スチールのハマダさん(ハマジム)がいた。証言者がいるという文面を考えたのは?(加賀氏)

・ここに関しては分からない。松尾さんだと思っていた。

—実際に文章を作ったのは誰なのか?

・色んな人が手を加えている。一番最初は自分が叩きを書いたが、現場のことに関しては手を入れられない。手を加えているとすれば松江さん側。

ーそもそも、声明文に不明な部分があるのに署名した?あくまで配給の立場で署名しないことも出来たはずだが。なぜそこまでの責任を負ったのか?

・単純に松江さんは、ある種の恩人。この作品が一番最初の作品で。これぐらいしか役に立たないと思った。仁義を通したところはある。信じるしかないというか。

—信じる以上に自分の頭で考える作業が普通あるのでは。十二年前の段階から、ある種お二人(松江氏、直井氏)に救いの手を差し伸べていた。だから物事を話し合いで解決するという態度を取ってきた。早い段階で耳を傾けてもらっていたら、この作品の問題を想像するのは難しいことではなかったはず…(加賀氏)

—現段階において、「加賀氏が強要を受けたと主張するシーンについても、加賀氏は一貫して撮影に協力的でした。松江監督は何ら強要行為などしていません。」の部分についても事実ではないという認識?

・そうなる。

—直井さんの言葉にはまだ歯切れの悪さを感じる。2017年の声明も、2019年の謝罪文も、何でこんなの書いてしまったのかと思う。本当に膿を出しきるのが一番。

 「加賀氏は本作品の公開には協力してくれていました。」という部分も、話し合いで解決したかったというだけで、強要があり、上映自体に反対していたこととは別の話。(加賀氏)

—「そもそもドキュメンタリーとは、画面に映っているのは現実そのものではなく、本作品も松江監督による演出が施された作品であることは言うまでもありません。」の部分について、フェイクドキュメンタリー、モキュメンタリーとも書けたはずで、それも今となってはどうかと思うが、そうすればお互いにダメージは少なかった気もする。

 ドキュメンタリーと書くことによる被写体への影響は考えなかったのか?

 「AV女優は綺麗なものとは思えない」という、言わされたセリフを見た観客から、加賀はひどいと言う認識を持たれてしまう。それだけでもヤラセの問題になると思うが?(加賀氏)

 

・一出演者と共同制作者の部分の認識を履き違えていたというか…

 単純に劇映画として作られたものだったら全然違うものになっている。当時、V&Rとかあった流れで、ポップというか、軽いというか、そういうものとして楽観視してたんだろうと思う。同調してしまうというか。フェイクドキュメンタリーと言ってたのではという気持ちもあったが、監督が一貫してドキュメンタリーという言い方をしたいというのはあった。

—この部分(ドキュメンタリーの演出についての部分)については直井氏が書いた?

・こんなことは言えない。

—直井氏が書いた部分はあるのか?

・事実関係の、配給の流れの部分。

—連名で書かれているから、この文章の責任の所在は直井氏と松江氏にしか求められない。ここに書かれた文章について明確に答えられない状況自体が失礼。ある種この声明を出すことは二次加害的な行為にもなっている。その点は明確に謝罪すべきでは?

・その通りだと思う。

—「本作品は、先にも挙げた通り、加賀氏自身の手によって数時間にもわたり記録された想像素材を、松江監督が構成・編集するという共同作業によって作成されたものです。このような共同作業には加賀氏も能動的に関わっており、本作品の中には、松江監督と加賀氏が共にアイデアを出し合って撮影されたシーンもあります。」の部分については誰が書いたのか?

・聞き知ることは、知っている範囲でベースとして書いた。

—そもそも松江さんと僕で一緒にドキュメンタリー作ろうと企画が始まっているから、能動的に関わっているのは当たり前だが、単純に松江さんが面白いの撮ってきてよと言って、自分のカメラと自分で買ったテープで撮った。(加賀氏)

・松江さんはビンタのシーンのことを言っていた(「アイデアを出し合って」の部分)。ビンタの音が悪かったから撮り直そうとかそういう…

—あれはアイデア出し合って撮影されたと言えるのかは怪しい。どのシーンがアイデアを出されたシーンなのか?暴力が行使される現場ではありませんでしたとは、どのシーンのことなのか?(加賀氏)

—今現在、加賀氏からの話を聞いて、暴力があったと認識している?羽交い締めされていることについては?

・今の観点からすると、そう(暴力である)。

—今でもこの文章が本当に正しいと思っているか。(加賀氏)

・2019年の謝罪の短い文章でちゃんと書けていないので、訂正しないといけないと思っている。

—話を総合すると、事実関係を確認していないにも関わらず、文章を書いた、すみません。ということだと思う。その上で、「暴力がなかった」というのは、今現在責任を持って言えるのか?(加賀氏)

・言い切れない。

—「加賀氏の一方的な主張を受けて一部で喧伝されているような、本作が暴力で作られた映画であるという風評は、全て事実無根であり、明確に否定します。」の部分は?

・事実無根ではない。この時は、言い切るという方向で(声明を)作っていた。

—単純に自分が関わった作品を守りたいという気持ちもあったと思うし、お世話になった松江さんに仁義を通す部分もあったと思うが。(加賀氏)

・結局その気持ち一つで。そもそも分かってないままで連名で出したのは…アップリンクの 浅井さんにも同じことを言われて。あの後tweetされてた。元上司ということもあって。配給としてちゃんとコメントを出した方がいいと言われた。

—嘘のない範囲で立場を明確にするしかないのでは。名誉を侵害されている。そこに対する姿勢を出されるべきでは。この声明を真に受けている人もいるし、ネットニュースはこれを右から左で流した。当時プレスリリースを出した?(加賀氏)

・そうしようという話で(リリースを出した)。松江氏のテレビ関係の仕事もあって…

—松江氏を守ろうという思いが強かった?

・二年前はそう。強要問題という点も、言われてみればそうかもしれないという認識。

—加賀氏の身を削った訴えを生かしていくには、周りの人が認識を変えないといけない。給としても、松江氏を守りたい気持ちは分かるが、明確にこういうことはまずいと出さなければいけない。当時の関係性だと20代の加賀氏の人間性、自尊心、主張を受け入れようとしなかったんじゃないか。当時から対応がダメだったと認めるべき。

—泣き寝入るという前例を作ってはいけないという責任もある。建設的な話をしたい。直井氏はMOOSIC LABなどもやっていて、若手の監督たちに対する責任もある。共倒れは望んでいなく、この問題を解決したい。(加賀氏)

・解決したいという気持ちを聞けて良かった。変なフィルターが加賀くんを見るのにかかっていて、正直怖かった部分がある。自分からしたら松江さんも怖い。

 個々で分けて声明を出すという話もあったが、弁護士から感情的なことを書くべきではないと言われ、取っ払ってしまった。松江さんに気を遣ったところもあって。

—松江さんを守ろうとすることで、逆に追い詰めているとも思う。訂正は出す?(加賀氏)

・出さなきゃいけないと思う。相談して。

—ロサの責任についてはどう思うか?

・ないと思う。「上映大丈夫だよね?」「大丈夫です」というだけなので。

—ロサも問題は認識していたし、責任はあると思う。単純に興行収入はロサにも入っているので、それも含めて。(加賀氏)

—友人としてこの二年間加賀さんと付き合ってきた中で、その場では発言しない方が良い、その場には行かない方が良い、とか、自身の生活にかなり制約を受けてる部分があった。そういうことも想像してほしい。加賀さんの周りで一緒にものづくりをやってる人間もいるし。声明をきちんと訂正して欲しい。(牛丸氏)

—自分だけのことではない。わかりやすく言えば家族。実家に帰ったら怒られる。親には何も言ってなかったが、地元の新聞で紹介されてたので家族は見にきた。来て欲しくなかった。家族の中では、この話は暗い影を落とす。

 仕事もやっているから、自分一人のことでもない。この二年で会った初対面の人に「もっとやばい人かと思ってました」と何回も言われた。

 この十二年でも、「加賀くんは頭がおかしくなって、会話が通じない男になった」と聞いたと言われた。共通の友人からは、松江さんが飲み屋で「加賀は当たり屋で生計を立ててる」と言っていたと聞いた。(加賀氏)

・『童貞。をプロデュース』の今後の上映については思っていることは?(直井氏)

—個人的な思いとしては、上映して欲しくない。見るのも見られるのもゲロを吐く思い。

 それとは別の部分で、公共心に近い感覚で言うと、シンポジウムのような形で、必要があるんだったら…と言うのはあるが…それをやって誰も特はしないと思う。(加賀氏)

—作品の構成は良くできていて、あれだけ見ると、また単に面白いで終わってしまうかもしれない。前後に解説があれば、批判的に見る機会になるかもしれない。(満若)

—『ドキュメンタリーは嘘をつく』や『さよならテレビ』とか、リテラシーの話になった時に、本当か嘘かのような議論は、当たり前の話。

 難しいのは、「フィルターがかかってた」こと。当時は強要行為が映されているにも関わらず(誰も)それに気がつかなかったこと。そのレイヤーの議論は必要。(加賀氏)

—今後、具体的にどう対応を?

・まず、声明の訂正は配給として出す。ロサとは話してもいいかもしれないが。

—責任の所在が曖昧になる恐れがあるので、個別で出す方が良いのでは。ロサの話はまたロサと。

—当時は善意の加害性というか。面白かったと、頑張ろうよ、という劇場(ロサ)も含めた空気の中で、舞台挨拶でやったようなことを十二年前に、20代の自分は出来なかった。

 声明の中でも「公開には協力してくれていた」とあるが、いじめられっ子が次の日学校行ったら、いじめはなかったことになるのかとか、パワハラを受けた会社員が、次の日会社に行かないのかというと…普通は関係性を続けてしまう。(加賀氏)

—サンプルDVDが出回っているようだが?

・当時宣伝用にライター、媒体向けには出したものはあるが、それ以外は出してない。ナンバリングはしていない。回収は出来ていない。しまださんが作ったガンダーラ映画祭の四作品くらいをまとめたDVDがあり、それには『〜1』だけが入っている。

 変だなと思ったのはtwitterで想田さん(想田和弘監督)が書いていたのが謎だった。感想も異常な、怖い書き方をしていた。想田さんには出してない。

(※想田和弘氏は12月22日に、自身のtwitterにおいて、本作を最近見たことを前提に本件への見解を書いている。)

—東風経由では?(満若)

・木下さんにも聞いたが、「渡していない」と。

—東風には問い合わせた。「持ってないです」と。別バージョンも自分が把握しているだけでもある。それも問題。予告編は未だにyoutubeにあるが?(加賀氏)

・予告は下げる。

—名誉回復も含め、権利侵害に対して保障をして頂きたい。(加賀氏)

 一番は、2017年の声明の撤回のリリースを出して、訂正記事を各メディアに求めること。それで初めて解決に向かう。

 お願いしたいのは、継続した権利回復。和解しました、解決しました、じゃ済まない。

 継続して自分の権利、名誉回復に努める。

・権利関係はどう持っていけば良いか、著作などは…

—例えば、儲けた分を全部、性犯罪被害の団体に寄付するとか。そういうことでは。

 基本的には、声明の事実誤認の訂正と、この声明によって発生した被害は何かを明確にした上で、権利回復、名誉回復に努めるというようなことではないかと思う。

(※一旦、対談が終わる空気になるが、加賀氏が最後にもう一度直井氏に話し始める)

—最終的に、謝罪は何に対してだったのかを確認したい。(加賀氏)

・当時のことを理解せずに上映を続けていたことは本当に申し訳なかった。

 2017年の声明文で改めて傷つけてしまったこと。さらにこの間の(2019年)松江さんの文を上げることで…

 配給として、二人が冷静に話せないのであれば、自分がもっと早く動くべきだった。ずっと話されていたことを誤解していたのが本当に申し訳なく、当時もっと踏み込んで聞いてあげることが出来なかったのが…自分が若かったとか関係なく…

 作品を守りたいとか、松江さんへの恩義は置いておいて、個人として加賀くんへの配慮が足りなかった。

 自分で思い込んでいたこと、追いついてないことがたくさんあって、話せて良かった。

 混乱していたこともあったので。申し訳ない。この十二年、加賀くんの言葉をちゃんと受け止められてなかったことを。今後、加賀くんに何か支障があるのであれば申し訳ないので、出来ることがあるならばと思う。

—自分だけのことではない。こういう仕事に携わっている上での職業倫理にも関わってくること。前回、松尾さんと話した時も、この話に関して、AV業界が悪者になってしまうという部分で、業界を健全化する責任を(松尾さんは)担っている。

 直井氏さんインディペンデント映画の世界で仕事をしているので、そこにも責任ある立場だと思うので、そういうことも約束してもらいたい。

・MOOSICの人も、気にしてくれている人もいたので、丁寧に話したいと思う。

—例えば、もしMOOSICでプロデューサーという立場で関わっていて、監督が人の道を外している場合、仁義を通すとかではなく、社会的な意義や公共性を考えて欲しい。

 女優さん俳優さんが良くない目にあっていたら、そこは矢面に立ってそれを健全化出来るのかという。作品を守りたい以上に、被害者を…

・当時そこは本当に強引だったと思う。作品があって、監督が何しても良いというような野蛮さというか。どこかそういうクリエイティブなところで、自分が作り手じゃない分、そうところの認識が…作品至上主義みたいな部分で、当時情熱を持ってしまっていた部分がある。

—本当にそう思ってもらいたい。そしたら世の中変わっていく。特に直井さんのプロデューサー業の形はお客さんと近いからこそ。いろんな人が悔しい思いをしている。

(了)

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続報『童貞。をプロデュース』問題 当事者同士の対談ーそこから見えてきたもの(4) 松江哲明氏との対談