f/22編集部より『童貞。をプロデュース』問題について経緯説明および松江哲明氏への抗議声明
作り手によるドキュメンタリー雑誌『f/22』は、創刊以来『童貞。をプロデュース』問題についてドキュメンタリーの作り手が共有すべき問題として取り組んできました。撮る者と撮られる者の力関係が非対称的なドキュメンタリー制作において、この問題は決して他人事ではなく、自分たち作り手の問題でもあるとf/22は考えています。
昨年12月17日に松江哲明監督から、加賀氏に会って話をするので第三者として取材して欲しいという依頼を受け、12月26日、30日、31日に行われた加賀氏と、カンパニー松尾氏、直井卓俊氏、松江哲明氏の公開を前提とした対談に取材に入りました。
取材後、編集委員の川上拓也が記事を執筆し、「続報『童貞。をプロデュース』問題 当事者同士の対談—そこから見えてきたもの」としてまとめました。そして本来は行う必要はありませんが、被害者である加賀賢三氏、また対談に参加した三者にとっても繊細な内容であるため、記事の対談部分のみ確認して頂くために原稿をお送りしました。
その後、カンパニー松尾氏と松江哲明氏の「当該分の発言を確認したい」という要望に応えて、現場で録音した音声データもお送りしています。この対応も本来必要ありませんが、三者が最低限納得できる形で掲載するという編集方針で対応しました。
そして1月20日に、松江哲明氏、直井卓俊氏、カンパニー松尾氏の三者からf/22への掲載拒否の連絡が入りました。その理由について、松江氏は本誌に「社会性」「公益性」が感じられない、この問題を本誌の経済活動に利用されたくない、と。直井氏は原稿に問題を解決しようとする意志を感じない、客観性や社会性を感じないとおっしゃいました。カンパニー松尾氏は理由を述べていません。
公開を前提とした場での取材に対する掲載拒否を受け入れる理由はありません。しかしながら、本誌はこれまで特集「撮られる者たちの眼差し」を組み、ドキュメンタリーの倫理観、被写体、取材対象者に対する敬意について考えてきました。三者が取材対象者である以上、掲載して欲しくないという思いを無下にしていいのか?という葛藤がありました。
しかし、その思いも21日に公開された松江哲明氏のnoteの記事によって打ち砕かれました。彼の記事には、対談の最中に加賀氏のみならず、f/22・ガジェット通信によって「否定と訂正と謝罪を執拗に求められる総括」のような事が行われた、などと事実と異なる点や、発言を都合よく切り取った印象操作が散見します。これはf/22および取材を行った満若勇咲(編集長)、川上拓也(編集委員)に対する名誉毀損にあたります。f/22として松江氏に断固として抗議します。
f/22は松江氏への抗議声明の代わりとして、松江氏と加賀氏の6時間に及ぶ対談の全文と、完成していた編集委員・川上の記事「続報 『童貞。をプロデュース』問題 当事者同士の対談—そこから見えてきたもの」を公開します。このまま掲載を行わなければ、年末に行われた当事者同士の事実確認や加賀氏への謝罪が意味のないものになってしまいます。また、f/22の取材活動が「否定と訂正と謝罪を執拗に求める」ものであったとする虚言を放置するわけにはいきません。カンパニー松尾氏、直井卓俊氏の対談の取り扱いついては現在編集部で協議しており、結論が出た段階で改めて声明を出すつもりです。
f/22は今後もこの問題に取り組んでいきます。
2020年1月22日
f/22 編集長 満若勇咲
編集委員 川上拓也
江藤孝治
辻智彦